ペーパーバックの虜

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「図書館がくれた宝物」ケイト・アルバス あらすじと感想

今年2024年の夏休みの課題図書(小学校高学年)に指定されている「図書館がくれた宝物」の原書(英語版)と日本語版を読んでみました。子ども向けの本ですが、大人が読んでも十分読んでよかったと思える本でした。

 

 

本書について

概要

この小説は、第二次世界大戦中のイギリスで、肉親を亡くした3兄弟がロンドンから地方に疎開し、そこで自分たちの保護者となってくれる人を探す、という話です。

イギリスが舞台ですが著者はアメリカのかたのようで、本書がデビュー作です。

小学生向けということで、すぐに読み終わるかと思っていましたが、意外とボリュームがありました。日本語版は384ページあります。長さはありますが、展開が遅いわけではないので、最後まで没頭できました。

 

登場人物

最序盤の、ピアース家に関連する人物だけ紹介します。

  • ウィリアム………ピアース家の長男。12歳。しっかり者。
  • エドマンド………次男。11歳。やんちゃ。
  • アンナ………長女(末っ子)。9歳。
  • コリンズさん………お手伝いさん
  • エンガーソルさん………弁護士

 

あらすじ

1940年、第二次世界大戦中のイギリス。早くに両親を亡くし、祖母と暮らしていたウィリアム、エドマンド、アンナの3人兄弟は、その祖母をも亡くし、子ども3人だけになってしまう。自分たち3人の保護者になってくれる人を探すため、3人はロンドンから地方への集団学童疎開に参加する。

 

感想

3兄弟が健気でいい子すぎる

簡単にまとめてしまうと、疎開先での厳しい日々に、3兄弟がお互いを思いやりながら耐えていく、というお話なのですが、この兄弟愛というか、支え合いがすごい。

後述するウィリアムがあまりにも弟妹思いなのを置いておいても、エドマンドとアンナも、常に他の2人を気にかけ、守ろうとします。

この兄弟の絆が揺るがないので、疎開先で辛い出来事があっても、そこまで悲愴感がないというか、もちろん読んでいてつらいけど、読めなくなるほどではなかったです。

また、この3人は、自分たちに対してだけでなく、周りの人たちにも自分にできることをしてあげようとするので、読みながらずーっと応援してました。

 

立場が人をつくる

3人兄弟の一番上の兄、ウィリアムは正直ちょっと人間が出来すぎでは?とも思いました。たしかに、戦時中の当時の手紙などを読むと、子どもでも精神年齢がとても高いと感じますが、それにしても。

でも、彼に割り当てられ(てしまっ)た役割がそうさせたんだな、と考えると納得できます。ウィリアムを見ていて、「立場が人をつくる」という言葉を思い出しました。エドマンドとウィリアムは1つしか違わないけれど、エドマンドはまだ年相応です。この年頃の1歳差は大きいとはいえ、やっぱり与えられた役割の差だと思います。

この本には3回ほど泣かされましたが、1番泣いた場面は、p.210のウィリアムのセリフです。

 

本好きの人におすすめ

3兄弟のもうひとつの特徴として、「全員が本好きである」という点があります。

いろいろな古典や名作が登場して、巻末にはリストもついているし、本好きなら読みながら頷いてしまうところも多いです。

The first words of a new book are so delicious—like the first taste of a cookie fresh from the oven and not yet properly cooled. (p.35)

新しい本の出だしを読むときの、どきどきすることといったらない。ちょうど、オーブンから取り出したばかりの、できたてのクッキーをかじるときの感じに似ている。(p.47)

 

子どもを対象に書かれている

逆に、どんな人にはおすすめしないかも考えてみました。

冒頭に大人でも読める的なことを書きましたが、対象読者は子どもということもあり、キャラクターがやや一面的?というか、特に「いい人」がいい人すぎる、みたいなところは、もしかしたら児童書であっても気になる人はいるかもしれません。

私は、読んでよかったと思いました。児童書を読んだのは久しぶりですが、他のものも読んでみようかと思ったくらい。悲しい気持ちにもなったし、先の展開も結末も予想できたけど、3人の生き様に心が洗われました。

 

英語について

どうして「お月さま」なのか

本書では、キーワードとして「お月さま」が出てきます。

母親が昔、3兄弟のことをまるで「お月さま」のようだと言っていたという場面があり、その後も「お月さま」という言葉は何度も出てきます。

“Mum always said her children hung the moon.” (p.9)

「母さんはいつもいってた。うちの子たちは、まるで夜空に輝くお月さまのようねって」(p.16)

 

この hang the moon という表現を私は知らなくて、手元の辞書には載ってなかったのでネットで調べてみたところ、think someone hung the moon で、(人)が空に月をかけた当人ではないかと思ってしまうくらい素晴らしいと思っている→つまり、(人)のことを素晴らしいと思う/愛している、といった意味のようです。掲示板などを見ると、そこまで一般的な表現ではない(古風?地域的?)という意見もありました。

原書のタイトルも A Place to Hang the Moon となっています。

物語は子どもたちの目線で話が進むので、保護者になってくれる人を探す、と与えてもらう立場のように思えますが、タイトルを見ると「月をかける場所」→自分たちが月をかけるに値する場所→素晴らしい・愛すべき自分たちがいるべき場所/一緒にいるのにふさわしい人、となり、3兄弟の方こそ希望や幸せを与える側であることが示唆されていると思います。

日本版は意訳となっていますが、複数の意味にとることができて、こちらも好きです。「図書館」をもってきているのも、私のように「本についての本」に釣られがちな読者にはありがたい。

 

英語版はオーディオブックもおすすめ

英語版は、読みながらオーディオブックも聞いていました。

ナレーターは女性。キャラクターごとに声色を変えてくれるので、楽しかったです。カー先生の声が想像通りで特に好きでした。再生時間は8時間ありますが、子ども向けにかなりゆっくり読まれているので、1.3倍速くらいでちょうどよかったです。

英語版はオーディブルで聞き放題の対象になっているので、会員のかたはぜひ聞いてみてください。原書タイトルの A Place to Hang the Moon で検索すると出てきます。

 

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