ルイス・サッカーによる児童書「穴」を原書(英語版)とあわせて読みました。
ユーモアがあって、謎解きの要素もあって読みやすく、大人の英語多読や、大学入試対策としても超おすすめの児童書です。
シリーズについて
本書の後、シリーズ作品として2冊が出ています。
- Stanley Yelnats' Survival Guide to Camp Green Lake / 道
- Small Steps / 歩く
「道」は本書のサイドストーリー集、「歩く」は本書の2年後を描き、作中の登場人物である「脇の下」を主人公にしたスピンオフ作品になっているようです。
あらすじ
代々不運に見舞われる家系に生まれついたスタンリーは、冤罪によって非行少年の更生キャンプに送られてしまう。そこでは更生プログラムとして、少年たちが灼熱の砂漠でひたすら穴を掘る作業をさせられていた。スタンリーは、穴掘りには別の目的があるのではと疑い始める。
感想
百年前と現在の物語が交錯する
It was all because of his no-good-dirty-rotten-pig-stealing-great-great-grandfather! (p.7)
それもこれも、あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんのせいだ! (p.12)
物語は、更生キャンプにいるスタンリーを主人公に進みますが、合間に百年前のエピソードが差し込まれ、過去のエピソードを読むことによって、現在の謎が少しずつ解明されていく、という作りになっています。
この、点と点が線になっていく様子が、とても楽しい!
スタンリーの家系は、スタンリーの高祖父が引き起こした呪いによって不運である、と言い伝えられています。
高祖父のしたこと、百年前の出来事、更生キャンプの穴掘り作業……。物語の前半は、不幸の連続のスタンリーにハラハラしたり、周囲にイライラしたりしますが、後半にすべてが繋がっていくカタルシス感がすごかったです。
ユーモアと謎解き、英語学習にもオススメ
全体にユーモアがあって、とても好みの本でした。
主人公のスタンリーは不幸続きだし、いじめや冤罪が出てきますが、語りが終始ユーモアにあふれているのでストレスなく楽しく読めました。
ユーモアという点では、前に紹介した「マチルダは小さな大天才」も大人におすすめの児童書ですが、あちらは英語の比喩表現などがやや独特だったので、英語多読・英語学習などの読書としてはこちらのほうが読みやすいかもしれません。
「謎」の要素があり、それにつられてぐんぐん読み進められるのも英語学習にぴったりだと思います。
著者ルイス・サッカーの小説(英語)は、大学受験用の問題集に掲載されているのを見たことがあります。物語文の対策としても、ちょうどいい洋書じゃないでしょうか。
【ネタバレあり】感想
※ここからはネタバレを含みます。未読のかたはご注意ください。
人種の問題
X-Ray, Armpit, and Zero were black. He, Squid, and Zigzag were White. Magnet was Hispanic. (p.84)
X線、脇の下、ゼロは黒人、スタンリー、イカ、ジグザグは白人、磁石はヒスパニックだ。(p.112)
この本の重要なテーマの1つに、黒人への人種差別問題があると思います。
百年前に起きた悲劇のエピソードでは露骨に描写されていましたが、私が一番気になったのはミスター・ペンダンスキーです。
悪人だらけと言ってもいいくらいの更生施設の職員のなかで、唯一いい人そうに思えたペンダンスキー。他の職員にいじめられるスタンリーをこっそり助けてくれさえもします。
終盤で化けの皮が剥がれ、他の職員に負けず劣らずの悪漢だったことが露呈しますが、それまでも、なぜかゼロには冷たくあたり、スタンリーが不思議がる描写などがあります。
Stanley didn’t know why Mr.Pendanski seemed to have it in for Zero. (p.138)
ミスター・ペンダンスキーは、ゼロを目のかたきにしているようだ。なぜだろう。スタンリーにはわからなかった。(p.184)
スタンリーが白人、ゼロが黒人ということは上記引用のように明記されています。ペンダンスキーの人種については明記されてなかったと思いますが、おそらく白人ではないでしょうか。
ペンダンスキーがゼロを無下にする際、スタンリーはその理由がわからない、という描写にメッセージがあるように感じました。百年前にサムとキャサリンを苦しめたような法律はなくなっても、いい人そうに見える人のなかにも今だに差別の意識があるかもしれない、と。
いまペンダンスキーの人種を調べに検索をしていたのですが、読書クラブや学校のワークシートなどでは人種問題の他にも、お金の問題や女性の役割の問題(キャサリンの変化)など、様々な問題が挙げられており、自分の読みの浅さを痛感するとともに、ここまで深く読み込まれる本書の凄さを感じました。
ちなみにペンダンスキーはやはり白人とされているのを複数見つけました。作中に言及あったっけ、読み逃したかな……?