ペーパーバックの虜

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「ラテに感謝! How Starbucks Saved My Life―転落エリートの私を救った世界最高の仕事」マイケル・ゲイツ・ギル 感想

 

「ラテに感謝! How Starbucks Saved My Life―転落エリートの私を救った世界最高の仕事」の原書(英語)と日本語版を読みました。

働き方・生き方や人種・階級の問題について考えさせられると同時に、読み物としても面白く楽しめた本でした。

とても読みやすく、英語多読にもおすすめです。

 

 

本書の概要

超上流階級の出身で、大企業で働きながら裕福な暮らしをしてきたアメリカ人男性が、53歳で突然リストラされ、起業するも破産し、63歳でスターバックスで働き始めて、それまでの人生観が一変していく様子を綴ったノンフィクション(自伝)です。

 

感想

人種や特権階級の問題が垣間見られる

大企業をリストラされて飲食店で働き始める、というと、そこまで珍しくもない感じがしますが、この本の著者の場合は人生の上下のスケールがハンパないです。

幼少期は35部屋もある(!)大豪邸に住んでいて、両親はパーティー三昧。

進学、就職、あらゆることにコネが通用し、芸術など各分野の著名人と交流を楽しむ生活。

家庭のことは妻に任せて、フォードやIBMといった国際的大企業を相手に、世界を飛び回って刺激的な大仕事に没頭していた著者は、53歳の時、可愛がっていた元部下である上司にリストラを告げられ、起業するも破産し、おまけに不倫をして妻から離婚されます。

さらに病気が判明するも、保険に入っていないため手術もできない。このままだと再婚相手との間にできた子供も養えない、と、人生をド派手に転がり落ちます。

どん底にいた著者は、スターバックスの従業員が加入できる健康保険に惹かれて働き始めることになります。

この、スターバックスの健康保険の恩恵を受ける従業員は多く、著者は後に、生まれて初めて歯医者に行く、という店員の話を聞いて愕然とします。

63歳でスターバックスで働き始めるまで掃除をしたことがなかった白人の著者と、スターバックスで働くまで歯医者に行ったことがなかった黒人大学生。

この本全体を通して、人種や階級の問題が取り上げられていますが、ここの対比が一番強烈に感じました。

63歳の白人男性が28歳の黒人女性の部下として働くということが、いかにショッキングなことだったのか、読み進めていくうちに実感していきます。

今まで一度も足を踏み入れたことのないニューヨークの危険な地区にある店舗で、ただ一人の白人の店員になった著者は、今まで関わったことのない階級の人々と一緒に働き、客にも同僚にも敬意をもって接するというスターバックスの理念を体感していくうちに、他者に奉仕することに幸せを見出すという、今までと正反対の生き方を発見します。

I felt an actual pain in my heart at that moment, realizing with regret my arrogant assumption that God had created me and those like me to rule because we were worthier than other races of people. Now, finally, I was “getting it” as I faced a new reality of what the world could be like without inherited advantages. (p.42)

神がわたしやわたしの同類の人々を支配階級に据えたのは、わたしたちがほかの人種よりも価値があるからだと考えていた。自分があまりにも傲慢であったことに気づき、後悔で胸が痛んだ。生まれながらの特権がなければ、現実がどのように厳しいものであるかが、わたしにもようやく理解できたのである。(p.56)

この述懐は衝撃でした。この著者は、あまり好きになれない言動もありますが、正直で率直なところがすごい。

後悔や現実逃避に留まらずに、若くなくても新しい場所で新しい挑戦をして、柔軟に価値観を更新していったのも素晴らしいと思うし、見習いたいです。

ただ、やっぱり、実際に相手と同じような状況にならなければ理解できないほど、階級などの違いは大きいんだなあとも思いました。

日本でも最近、「ふだん関わりのない"社会の底辺"を見て自分がいかに恵まれているか確認できるから飲食系バイトはおすすめ」といった内容の医学生のSNS投稿が話題になっていました。

スターバックスは客層も良さそうだし「飲食系」で一括りにしていいかは分かりませんが、この本の著者が似たような経験をしても医学生と真逆の思想に行きついたのは、実際に自身の境遇が変化して初めて自分と違う人たちを理解できた、ということじゃないだろうか。よほどの想像力がないと、結局は実体験がないと理解はできないんだろうな。

絶望から立ち上がって明るいほうへ向かっていくいいお話なのに、こんなことを考えてひとりで暗くなっている私は本当に根暗だな……。

 

著名人が多く登場する華々しい回顧録が面白い

話の本筋はスタバでの奮闘記ですが、合間合間に過去の思い出話が挟まれます。

その登場人物たちがすごいんです。

エリザベス女王やヘミングウェイ、フランク・シナトラ、といった錚々たる著名人が出てきます。上流階級の社交ってこうなるの!?と度肝を抜かれました。

特に、スペインでヘミングウェイと話した逸話が面白かったです。

さすがは元エリート広告マンというべきか、話の展開も引き込まれるもので、楽しく読みました。

 

今すぐスタバに行きたくなる・働きたくなる

この本の感想はもちろん人それぞれだとは思いますが、一つだけ言えるのは、最後まで読んだら、絶対スタバに行きたくなっているはず!(笑)

むしろ働きたくなってるかも。

それくらい、全編通してスタバアゲアゲ↑↑、スタバを崇め奉っている本です。

書かれていることが本当なら、こんな職場で働きたいと思わせられます。

体力的な問題はありますが、退職後に、自分の住む地域の店舗で働いてコミュニティーとつながるのは、むしろアリ寄りのアリなのでは?と思わされるくらい、魅力的に描かれていました。(ちなみに本書にはモハメド・アリも登場する)

私はほぼ全く利用しないのですが、たま~~にプレゼント用にカードを買いに行くと、店員さんのコミュ力の高さに感動します。誰とでも楽しくお話できるの本当すごい。

読後の今は、かつてなくスタバ熱が高まっているので、冷めないうちに行ってきます。

 

英語多読にもおすすめ

英語も日本語訳も読みやすく、多読にもおすすめです。

邦訳が絶版になっているようで残念ですが、古本で安く購入できました。

ものすごい宣伝効果があるから、スタバの全店舗に置いたらいいのに……。