ペーパーバックの虜

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「木曜殺人クラブ 二度死んだ男」リチャード・オスマン 感想

高級施設で優雅に暮らしつつ、事件を解決するスーパー高齢者4人組の活躍が楽しい「木曜殺人クラブ」シリーズの第2巻!

原書(英語版)と日本語版を読んだので、概要と感想、そして、日本版では省略されている仕掛けを紹介していきます。

 

 

本書について

この本は、「木曜殺人クラブ」シリーズの2作目です。シリーズについてや、著者については、第1巻の感想ページにまとめているので、そちらを見ていただければと思います。

pprbck.com

2024年6月現在、原書(英語)が4巻まで、日本語訳は3巻まで出ています。

  1. The Thursday Murder Club/木曜殺人クラブ
  2. The Man Who Died Twice/木曜殺人クラブ 二度死んだ男
  3. The Bullet That Missed/木曜殺人クラブ 逸れた銃弾
  4. The Last Devil to Die/邦訳未刊

続きもので、新刊は前巻までのネタバレを含むので、この順番に読んでいくのをおすすめします。

5巻は来年2025年に刊行予定のようです。

 

感想

ついにエリザベスの過去が明らかに!

本書では、前作の第1巻では明かされることのなかった、エリザベスの現役時代の職業がついに明かされます。ちなみに私の予想は外れました!

エリザベスの過去に関係する人物が彼女を訪ねてきたのをきっかけにして事件が起こり、おなじみ「木曜殺人クラブ」の4人組が調査にのりだすのですが、前作よりも事件の規模がかなりスケールアップしています。

 

イブラヒムの内省 人生の残り時間

主軸となる事件がエリザベスを中心にして豪快に進んでいくのと並行して、今作では、前作で個人としてはそこまで多く掘り下げられなかったイブラヒムにも、スポットライトが当たります。

1番好きなキャラクターは、ジョイスかエリザベスか悩ましいところですが、内面が自分に1番近そうなのはイブラヒムかな~と感じます。小セネカが好きという点も一緒。小セネカの本を座右の書にしている身としては、もうオスマン氏の本は全部読まねばと決意しました。

イブラヒムのこのモノローグは、家にこもりがち、内側にひっこみがちな私に突き刺さりました。

you made the biggest mistake of them all. You forgot to live, you just hid away, safe and sound. (p.28)

おまえはなによりも大きなまちがいをしでかしたんだ。おまえは生きることを忘れ、平穏無事を求め、ただ隠れていた。(p.38)

 

人生下り坂、けれど明るいほうへ

このシリーズは、年齢的には人生下り坂といえる人たちがメインで、でも決して暗くないところがとても好きです。

イブラヒムが人生の残り時間の少なさに苦悩する一方、本作で登場するダグラスは、60代で、社会や価値観の変化についていけず、今までと同じことをしているのにハラスメントととられたり、職場で浮いてしまうことに悩みます。

他にも、薄毛に悩む中年男性など、加齢にまつわる内容は、大なり小なり共感できる部分があるし、読んでいると気分が落ち込みそうなものですが、第1巻と同様、全体にユーモアがちりばめられていて明るいし、キャラクターたちは基本的に何とか明るいほうへ向かおうとするので応援したくなるし、励まされます。やっぱりユーモアの力はすごい。

 

孤独について

ミステリーの裏に隠れたテーマがあるとしたら、前作は「夫婦の愛」だと思ったんだけど、今作は「孤独」かな、と思いました。

「老いること」についてもかなり扱われているけれど、例えばイブラヒム、ダグラス、ランスとか、加齢や社会の変化、体の変化に悩まされているように見えて、全員孤独であることが根本としてあるんじゃないかな。ドナなんか若いけど孤独を抱えているし。この4人と対照的なのが、クリス。50代で、前作で同じように悩んでいたけど、この巻ではもうとびきりハッピーになってる。やっぱり愛とか友情が大事だよねっていうことでしょうか。

このシリーズを読むと、なぜか結婚したくなります! ロマンス小説を読んでもそんな気持ちになるどころか「こんな人はいない……」とますます現実から遠ざかりたくなるのに。ジョイスが出てくる男性たちに次々にうっとりしながらも、何かと亡き夫を思い出し、明け方ひとりで泣くところとか、あんなに強く毅然としたエリザベスがスティーヴンのことを考えると脆くなるところとか、胸がつまります。

 

【ネタバレ注意】日本版で消えたトリック

※ここからは、ネタバレを含みます。事件の真相とかではないですが、読んでいないと何のことだか意味不明だと思うので、ぜひ読後にお読みください。

 

本書の日本版を読んだかたのなかで、普段からミステリーを読むかたは、「あれ?」と思った箇所がなかったでしょうか。

p.298で、エリザベスがダグラスからの手紙を読み直すシーンです。

ここでエリザベスは、以前ダグラスと手紙をやりとりしていた際に、文頭の文字をつなぎ合わせてメッセージを送っていたことを思い出してから、手紙を再読しています。日本語でいう「縦読み」に近いやつですね(ちょっと違うけど)。

わざわざ手紙の一部も再掲しているし、隠しメッセージがあるに違いない!と文頭の文字をつなげて読んでみた人もいたんじゃないでしょうか。実はそれ、正解です! 

日本版では省略されていますが、原書の英語版では文頭の文字をつなげると Nice try, dear.(残念だったね)となり、この答え合わせは p.362 のスーとの会話で明かされるのですが、日本版はこの仕掛けが省略されているので、会話の流れが自然になるように変更されています。

‘And I wonder if you noticed the first two paragraphs?’

‘Nice try, dear,’ says Sue. (p.307)

それから、あなたはふたつ目とみっつ目のパラグラフに書かれていることに気づいていたんじゃない?」

「多少はね」スーは言う。(p.362)

 

英語版で文頭の字を追って探したときは、すごく楽しかったです。

最近、「翻訳とか、AIや機械で事足りるでしょ?」みたいに言われることが多いし、実際そういう場面も多いと感じるので、久しぶりに英語を勉強してきてよかった~と思いました。

原書を読んでいて、手紙のところは日本版ではカットするのかな?と思っていました。日本語で再現できるように訳すというのは、ちょっと現実的ではないだろうし、話の筋に関わるわけでもなく、あくまでお楽しみ的な要素なので。

でも、前フリ(?)の後で手紙だけ普通に再掲されていたので、私だったら日本版だけを読んでいたらモヤッとするかもしれない……と思ったので紹介してみました。モヤッとした誰かのお役に立てたら幸いです。

 

原書の英語について

原書の英語で、特に気になったところは、クリスの言葉遣いをエリザベスが正す場面。

there’s nothing me and Donna can do.’

Elizabeth looks at him. ‘Donna and I, Chris. (p.46)

わたしとドナをやれることがないんです」

エリザベスはクリスを見つめる。「『わたしとドナには』でしょ、クリス。(p.59)

 

前作でも同様のシーンがあり、クリスが Donna and me と言ったところをエリザベスが Donna and I でしょと指摘していました。(日本語訳では「興味が出た」→「興味がわいた」の指摘へと工夫してあります。p.195)

繰り返し出てくるやり取りなので、何か意味があるのかな~と少し調べてみました。

そもそも me and Donna には、文法と礼儀の意味で、2つの間違いがあるようです。

  • 文法的には、me ではなく主格の I を使うべき。
  • また、マナーとして自分を後にもってくるべき。

さらに、ネットの掲示板などを見ると、「英語学習者にはピンとこないかもしれないが、主語で me and you を使うような言い間違いはネイティブには非常に多い」というようなことが書いてあり、なるほど~と思いました。

イギリスは階級社会で、話し方や言葉で階級がわかると聞きますし、エリザベスとクリスの生まれや育ちの差を表現しているのかも、とも想像します。

 

次の3巻も楽しみ!

感想があちこちにわたって、とりとめのない感じになってしまいましたが、前作同様のユーモアもあり、謎解きも楽しく(「これが伏線だったかー!!」と騙されたのも楽しい)、早くもすっかりお気に入りのシリーズになりました。

次の3巻も楽しみです。