高齢者施設の入居者たちが、警察顔負けの推理で事件を解決していくミステリー小説シリーズの第1巻「木曜殺人クラブ」。原書(英語版)と日本語版を読んだので、作品の概要やあらすじ、感想について紹介していきます。
本書について
2021年イギリスで1番売れた本
世界で大人気となった本書ですが、本国イギリスでは、出版翌年の2021年に年間ベストセラー1位を獲得したそうです*1。ちなみに、この年はシリーズ続刊の第2巻「木曜殺人クラブ 二度死んだ男」も4位にランクインしています。
日本でも、2022年の「このミステリーがすごい!」のランキングに入りました。
著者について
リチャード・オスマン氏は、コメディアンやテレビ番組のプレゼンターとして活躍されていて、本書がデビュー作となりました。
私はユーモア小説が好きなので、著者プロフィールに「コメディアン」とあったのも、この本を手にとったきっかけの1つです。
著者の作品情報
2024年6月現在、この「木曜殺人クラブ」シリーズが4巻まで出ていて、さらに別の新シリーズの第1巻 We Solve Murders が9月に発売予定となっています。新シリーズは、義理の親子(父と娘)がタッグを組んで事件を解決する話みたいですが、本シリーズですっかりオスマン氏のファンとなったので、こちらもすごく楽しみにしています。
映画化も進行中! Netflixで配信予定
キャストが続々と発表されて話題になっている映画化ですが、撮影は今年イギリスで行われ、Netflixで配信されるようです。日本でも配信されますように……!!
シリーズについて
「木曜殺人クラブ」シリーズは、2024年6月現在、原書(英語)が4巻まで、日本語訳は3巻まで出ています。
- The Thursday Murder Club/木曜殺人クラブ
- The Man Who Died Twice/木曜殺人クラブ 二度死んだ男
- The Bullet That Missed/木曜殺人クラブ 逸れた銃弾
- The Last Devil to Die/邦訳未刊
続きもので、新刊は前巻までのネタバレを含むので、この順番に読んでいくのをおすすめします。
5巻は来年2025年に刊行予定のようです。
主な登場人物
序盤にいろいろな人物が出てくるので、はじめは結構混乱しました。特に男性陣(ロンとかイブラヒムとか)がごっちゃになった……。
日本版は登場人物リストがついているので、大変助かります。リストを参考にして、序盤の登場人物の簡単な図を作ってみました。
あらすじ
富裕層向けの高級高齢者施設「クーパーズ・チェイス」には、趣味で、未解決の殺人事件について推理する入居者のグループ「木曜殺人クラブ」があった。お茶をしながら優雅に殺人事件の推理を楽しんでいたメンバー達だったが、ある日、事件が発生し、現実の殺人事件に挑むこととなる。
感想
ミステリ×ユーモア×ノスタルジックで、とっても好みで面白かった! 最初はやや展開がスローペースで、登場人物を覚えるのも大変だったけど、事件が起きてからは一気に面白くなった。著者がコメディアンということで笑いを期待していたけど、コメディではなくウィットに富んだユーモアという感じで落ち着いていて、とてもよかったです。ヴェンサムのフェアトレード・コーヒーのくだりと、カレンと会っている時の心中とかは笑う。
人物も魅力的。特にエリザベス! バスで隣席の友人に、本を持参していると伝え、「おしゃべり歓迎」と返されると、「よかった! 実は本なんて持ってないのよ」(p.48)。こんな風に上品で茶目っ気のある貴婦人になりたい。
でもジョイスもいいこと言うんです。
In life you have to learn to count the good days. You have to tuck them in your pocket and carry them around with you. (p.88)
人生では、よい日を数えるようにしなくてはならない。そういう日をポケットにしまって、いつも持ち歩かなくてはならない。(p.76)
舞台が引退者用施設で、主要な人物の年齢が高いので、年をとることや将来への不安、過去への郷愁なども語られるけれど、ジョイスのこの台詞が素敵でした。
Well, isn't this lovely, Ron? I never knew I liked beer. Imagine if I'd died at seventy? I never would have known. (p34)
ねえ、すてきじゃない、ロン? わたし、自分がビール好きだなんてこれまで知らなかった。七十で死んでたとしたらどうなってた? それを知らないままだったのよ (p.35)
仮定法過去完了は、これを例文として覚えたいくらい。
事件の真相は、4分の1くらい予想できました。犯人探しも楽しかったけど、この話のテーマは夫婦の愛だったのかな。
Back to the holiday trinkets and the old photos and the memories that he and Penny shared for fifty years. (p.50)
ペニーとともに過ごした五十年での休暇先の土産品と古い写真と思い出が存在する部屋に。(p.46)
ここでちょっとうるっときました。trinketを辞書でひくと、小さな安物の装飾品とか、がらくた、とある。わかる。旅先で買っちゃう、よくわからない細々としたもの。そしてそういう思い出の品が家にたまる。
こういうしんみりする部分と、愉快な部分の緩急が楽しくて、大満足な読書でした。早く次を読みたい。
原書の英語について
英語の難しさは、普通……? 易しくはないように感じました。
あとイギリス英語なので、trainers 「スニーカー」とか出てくる。アメリカ英語なら、sneakersとなるはず。