かなり昔に読んだ覚えのある Matilda を、再読しました。「これ本当に児童書か?!」と思うくらいブラックユーモアたっぷりで、おもしろかったです。
あらすじ
マチルダは、5歳にして難解な本を読み、暗算もこなす天才少女。両親や小学校の校長は、そんなマチルダの頭のよさ・思慮深さに気づかないどころか、ひどい扱いをする。賢いマチルダは、そんな意地悪な大人たちに仕返しをしていく。
感想
大人こそ楽しめる児童書
本書は児童書にカテゴリーされていますが、作中の皮肉たっぷりのユーモアを完全に楽しめるのは、むしろ大人ではないかと思います。
冒頭から、親バカが過ぎる保護者にうんざりした教師が通知表で仕返しする、といった強烈な話でギョッとさせられました。
こういった、大人が読むとちょっとドキッとさせられるような話が作中にいくつも出てきます。
この本を読むのは2度目で、最初に読んだのがいつか忘れてしまいましたが、その時には気づかなかった皮肉や比喩があるように感じます。
トランチブル校長が面白すぎる
もうこの本の感想はこれだけでいいんじゃないかっていうくらい、作中の悪役、小学校の校長のミス・トランチブルがとにかく面白すぎる。
ハンマー投げの元オリンピック選手で、筋肉隆々。子供が大嫌いで、特に小さい子供を目の敵にしています。気に入らない子供は、ハンマー投げのように、ひっつかんでグルグル回して放り投げます。
もう私は、校長が最初に紹介されるシーンから好きでした。勢いがすごい。
and if a group of children happened to be in her path, she ploughed right on through them like a tank, with small people bouncing off her to left and right (p.61)
そして、もし行く手に、何人かの子どもがかたまっていたとしたら、彼女は戦車のように彼らのなかに突っこみ、ちびっこたちを蹴散らして進む(pp.87-88)
この作品は、冒頭の最序盤は、マチルダが小学校に上がる前の話なので、お家の中の家族を中心にして話が展開されます。
マチルダの両親は娘に無関心で、心ない扱いをします。面白おかしく書かれているし、マチルダは決して感傷的にならず(!)やられたらきっちりやり返すので楽しく読めます。でも、ロアルド・ダールのキャラクターはファンタジーなのに妙にリアルなので、娘にまったく関心がない両親は、やっぱり悲しくなります。
でも、トランチブル校長が登場してからはもう大丈夫! 児童虐待なんてもんじゃない凶行の数々は、あまりに度を越していて、読みながらずっと笑ってました。
特に台詞に勢いがありすぎて、コントを見ているようでした。勢いで笑わせてくるやつ。
小学1年生のマチルダたちを、ありとあらゆる言葉で罵倒してくるんだけど、悪口のバリエーションが豊か。私のお気に入りの校長☆罵詈雑言ベストスリーはこちら。
- an unhatched shrimp 小エビの卵
- clotted carbuncle かさぶた
- empty-headed hamster 頭のからっぽなハムスター
この可愛らしい悪口たちを見ると、「本当は子ども好きなんじゃないの」と思えるかもしれませんが、そんなことはありません。
校長のエピソードはどれも外れがなく、際限がないのでこの辺にしておきますが、読んでいて吹き出してしまった、一番笑った台詞だけ紹介しておきます。
“Ears never come off!” the Trunchbull shouted.
“They stretch most marvellously, like these are doing now, but I can assure you they never come off!” (p.148)
「耳はぜったいもげやしない!」ザ・トランチブルはさけんだ。「耳ってやつは、伸びるんだ。いくらでも伸びる。ほら、いまだって伸びてるだろ。だが、ぜったいにもげることはないんだ!」(p.206)
いったいどういう状況になれば、こんな台詞が出てくるのか、気になったかたは、ぜひ読んでみてください。
天才少女がダメな大人を成敗する
暴走する校長に夢中になってしまいましたが、もちろん主人公のマチルダも魅力的です。読書家のマチルダは、本好きのキャラクターの代表格の一人として、booktuberさんたちの話題にもよく登場します。
If only they would read a little Dickens or Kipling they would soon discover there was more to life than cheating people and watching television. (p.23)
パパやママだって、少しでもいいから、ディケンズやキップリングを読んだらいいのに。そうしたら、人生には、人をだましたりテレビを見たりするほかにも、いろんなすばらしいことがあることが、すぐわかるはずなのに。(pp.37-38)
マチルダが、客を騙して中古車を売りつける父親に思うモノローグです。
くしくも、つい最近、同じような中古車販売業者のニュースがありましたね。
この作品は1988年に出版されたものですが、今も読まれているのは、中身がまったく色褪せていないからだと思います。比喩やキャラクターが独特で突拍子もないけれど、そのせいか、今読んでも驚くほど普通に読めます。古い感じがまったくしません。
マチルダの魅力は、読書家というだけではありません。
常に思慮深く、理不尽な目に遭っても動揺せず、落ち着いて「相手にふさわしい懲罰」を考え、着実に行動に移し、結果を出します。
意地悪でどうしようもない大人たちに仕返しして成敗していく姿は、とても痛快でスカッとします。
皮肉っぽいユーモアも、読書家のキャラクターも大好きな私にとっては、何から何まで好きな作品になりましたが、あえて気になったところを挙げるとすると、途中で急に超能力が出てくる点でしょうか。
一度目に読んだ時も、面食らったのを覚えています。
序盤の、マチルダが賢さを活かして仕返しをしていくのが面白かったので、できればその路線をもっと読んでみたかったとも思います。とはいえ、超能力を使う時も、頭を使って工夫しているので十分おもしろかったですが。
英語について
ロアルド・ダールの比喩はかなり独特なようで、気になった表現を辞書で調べても出てこなくて、ネットで調べると「小説Matildaにでてくる言葉。~といった意味。」のように書かれていることも多かったです。慣用的な表現ではなくて、ダール独自の表現ということですね。夏目漱石みたい。
なかでも私が一番気に入った言い回しはこちらです。
She's barmy as a bedbug. (p.80)
ナンキンムシみたいに頭がおかしいのだ。(p.113)
これ、英文も翻訳文も好きです。でも使う機会はないだろうな……。